携帯で会話する女子二人。気になって仕方がない男子二人。
「おい、涼木。ちょっと代われ」
「ちょっと、引っ張らないで」
聡を軽く睨みつけ、携帯を耳にくっつけるツバサ。
「美鶴、怒ってる? だってさ、こっちだって心配したんだよ。いきなり自宅謹慎なんて、ビックリするじゃない。…… あぁ、うん。いるよ。金本くんも山脇くんもいる。どっちかと代わる?」
「代われっ」
「代わってっ!」
同時の叫び声にチラリと視線をあげ
「どっちとも代わりたくないってさ」
こういう時、聡は素早い。頭で考える前に腕を伸ばし、ツバサから強引に携帯をもぎ取る。
「ちょっとっ」
「後で通話料払うからっ!」
「そういう問題じゃないってばっ! って言うか、かけてきたのは美鶴なんだからね。料金発生するのは美鶴の方――――」
胸の前で両手を握り締めて抗議するツバサを、背後からポンッと叩く掌。振り返る先で、コウが無言で首を振る。
何を言っても無駄だって
聡が掴んだツバサの肩を、さり気なく片手でポンポンと払う。
そんなコウの仕草に気付くことなくツバサが改めて見上げる先では、すっかり視野の狭くなってしまった二人の男子生徒が、バチバチと火花を散らしている。
「離せよ」
「い・や・だ」
携帯を耳に押し当てようとする聡と、そうはさせまいと聡の手首を握り締める瑠駆真。お互いの耳のちょうど中間で、携帯がプルプルと震えている。
その姿にふぅと息を吐き、もやは呆れ気味で腰に手を当てるツバサ。
「俺が涼木から借りたんだ」
「それは取り上げたって言うんだよ」
そんなふうにお互い睨み合っているのが、電話の向こうにまで伝わったのだろうか? うんざりとした声音が携帯を通して聞こえてくる。
「あんた達、何やってんの?」
「美鶴?」
「おい、美鶴っ」
「同時にしゃべるな」
「美鶴、お前、今どこにいるんだ?」
「自宅に決まってる。自宅謹慎なんだから」
かなり不機嫌なご様子の美鶴。まぁ、謹慎くらって機嫌の良い奴などいるはずもないだろう。
「美鶴、聡の義妹を殴ったってのは、本当?」
「殴ってなんかいない」
「じゃあ、なんでこんな事に」
瑠駆真の言葉に、美鶴はしばし沈黙する。
「美鶴?」
「お前らには、関係ない」
「みっ」
聡は言葉を飲む。
美鶴。お前、こんな時でも俺たちを突っぱねるのか? 何がお前をそうさせるんだ?
田代か? まだ田代がお前の中で―――
美鶴とは離れたくないと駄々っ子のようにゴネた、子犬のような少女の姿が脳裏に浮かぶ。
もういいじゃねぇか。いつまで引きずってるんだよ。田代の事は誤解だってわかったはずだ。それに、お前と田代はもう何の関係もない。アイツの事なんて忘れちまえよ。
すっかり忘れて、昔みたいにもっと何でも話してくれよ。昔のお前は、聞けば何でも話してくれたじゃないか。
昔みたいに、戻ってくれよ。
「おい、美鶴、これからそっち行く」
気付いた時には、そう口にしていた。
「は?」
「これから行く。待ってろ」
「これからって、聡、アンタは学校でしょ?」
「サボる」
「バカ。自分、何言ってるのかわかってる?」
「待ってろ」
「来ても入れないから」
チッ!
舌打ちは美鶴にも聞こえていたのかもしれない。だが、それでも美鶴は毅然と答える。
「来てもらう必要はない」
「話がしたい」
「電話でできる」
「電話したって出ないだろっ」
「僕だって、昨日からずっと電話してるんだ。着歴あるだろ?」
「何も話すことがないから出なかっただけ。メールは送ったよ」
「ほっといてくれの一文で、誰がどれだけ納得するんだよっ!」
突き放すような美鶴の態度。聡の中で、何かが一気に競りあがる。
「話す事なかったら出なくてもいいのかよっ! こっちは昨日から心配してんだぞっ!」
もう抑えられない。
「どれだけ心配してるのか、お前わかってんのかよっ! 逢いたいんだよ。逢って話がしたいんだよっ! なんでそれがわかんねぇんだよぉぉっ!」
なんで、なんでわかってくれないんだ?
荒れる呼吸もそのままに、聡はもう一度美鶴に告げる。
「これから行く」
しばし沈黙。
「……… 本当に、来るな。来てもらいたくない」
「美鶴っ」
「謹慎くらって落ち込んでるのはわかる。でもせめて、逢うくらいは」
今度は瑠駆真が説得に入る。だが
「別に落ち込んでなんかないっ」
「こういう時は誰にも逢いたくないって、そういう気持ちは僕にもわかるよ。でも……」
「わかってくれるなら、来てくれるな」
「こっちの気持ちもわかってくれよっ 逢うくらい、かまわないだろう? 話くらい―――」
「話す必要もない」
――――――っ!
必要がない。
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